その頃、頂上の火口では高温の火山ガスが西側に大量に漏れ出した。ガスは絡み合いながら乱流(火砕サージ)となって斜面を降りていく。雪が蒸発して発生した水蒸気も巻き込みつつ、白い煙が斜面を疾走していく。通過した跡は巨大な指でなぞったように雪がなくなっていた。熱風の塊は斜面を下り終えると森に突入。温度は200度、速度は時速100km以上。雪を溶かし、枝を吹き飛ばしながら進んでいく。行く先には1頭の鹿がいたが、逃げる間もなく熱風に巻き込まれた…
火山灰が積もりつつある森の中を、3羽は地面から2mぐらいの高さを保ちながら飛んでいた。
一方、火山の噴火はさらに激化。山頂からは、断続的に水しぶきのように赤いマグマが飛び散っていた。噴出する火山灰は減ることはなく、上空に広がっていく。また火山弾の量は増えており、次々に森に落ちて木を折っていく。木の枝に身を潜める鳥、どこへ逃げるべきかも分からないまま、火山灰まみれの体で走り回る鹿とオオカミ。火山灰と火山弾が降り注ぐ森の中を鳥、鹿、オオカミ、あらゆる生物が逃げ惑っていた。そんな森の中を3羽は火山灰を浴びながらも飛び続け、ディエムの巣にたどり着いた。ディエムの巣は火山の近くにあったが、火山弾の直撃を受けておらず、無事だった。その巣にはディエムとヒナだけでなく、ディアンもいた。
ロン「無事でしたか。ディエム殿にディアン殿!」
3羽はディエムの巣の脇にとまった。
(映↑)森の中を飛ぶ3羽、所々で枝から火山灰が落ちる→噴き出すマグマ→昇り続ける噴煙→火山弾→鳥→別々の場所で逃げ惑う鹿とオオカミ→巣に着地する3羽
ディエム「よくぞ来てくれた。ちょうど君たちを探していたところなんだ」
ロン「は?」
ディエム「ディアン、例のものを…」
ディアンは口ばしにくわえていた小さな実をフリーの翼の付け根、人間のわきにあたる部分に押し付けはじめた。
フリー「うわ〜なっ、何を〜」
暴れるフリー。それにかまわずディアンは実を押し付け続ける。ディアンが口ばしを離すとフリーの体に実が貼り付いていた。
(映↑)ディエム→実を付けようとするディアン→フリーの体に付いた実
フリー「ふぅ…いったい何を…」
ディエム「その実にはあの輝く花の種が入っている」
カレン「あの花の…?」
ディアン「この通り我々は大丈夫だ。しかしこのままでは、花が埋まってしまう。そして私が見たところ、山から降っている砂の上では、あの花は育ちそうにない」
ロン「ということはまさか…」
ディアン「そうだ。その実を持って早く旅立ってくれ。そして最終的にたどり着いた森に実を落としてくれ」
ディエム「実はある木の樹液で貼り付けたのだが、そいつは水には強いが衝撃には弱い。枝にぶつければ簡単に落とせる」
ディアン「もうそれしかないんだ。あの花をミライに残す方法は…」
ロン「ではディエム殿は…」
ディエム「我々はここに残る」
フリー「しかし大丈夫なのか?!」
ディエム「ああ、吹っ飛んでくる岩が全ての木を倒すことはないだろう。砂が降り積もってもすでに地に根をはっている木には関係ないはずだ。つまり森が跡形もなく、消えることはない。ならば我々は森を捨てるわけにはいかない」
ディアン「我々には花がつくってくれた絆がある。だからきっと群れも立て直せる。だから早く!!」
フリー「なら、いこう!」
カレン「ええ」
ロン「いきましょう」
(映↑)話しているキャラと森を切り替えて
3羽は決意を固め、飛び立った。火山灰を避けるため低空飛行で木の下をくぐりながら山のふもと付近を飛んでいく。その頃、山頂付近では飛び散るマグマの熱で急速に雪が溶けていた。突然でき
た大量の雪解け水が斜面の雪に染み渡っていく。その水で山の北西側の斜面の雪がごっそり滑り落ちていった。雪はどんどん加速しながら斜面を駆け降りていった。
山のふもと付近を飛び続ける3羽。
山の西側に到達すると火砕サージの痕跡が目に飛び込んできた。地面の雪が川が流れていたかのように無くなっていた。また木に積もった雪も高さ5mあたりまで溶けていた。
フリー「何だ?!変な道ができているぞ!」
カレン「見て!木が…」
火砕サージの通った跡を通過するときに西を見ると全ての木が西を指し示すように傾いていた。折れたり根こそぎ倒れている木もあった。
ロン「得体の知れないものが通ったみたいですね…」
未知の現象に恐怖感を覚えながら3羽は飛び続ける。その道の先には鹿がいた。火傷を負っていたが、軽傷だった。しかし体はフラつき、息苦しそうだった。熱風吸い込み気管を火傷していたため、
うまく呼吸ができていなかったのだ。
やがて鹿は地面の上に倒れた。その体の上に火山灰が降り積もっていく…
山の周りを飛び続ける3羽。
フリー「砂みたいなやつはあまり降ってこないな」
ロン「ええ、木の葉の防御効果は予想以上でしたね」カレン「そろそろ山の北西よ」
フリー「よし、山から離れるぞ!」
(映↑)飛ぶ3羽→飛び散るマグマ→水になる雪→雪崩発生→雪崩を正面から→火砕サージの痕跡を3羽目線で
ズゴゴゴゴ…
フリー「今度は何んだ!?」
山の方を見る3羽。雪が白い煙のようになり、猛スピードでこちらに向かっていた。
ロン「あれは故郷にいた頃、通りすがりの鳥から聞いた雪崩という現象では?!」
フリー「早く上昇するんだ」
3羽は急上昇した。ホバリングしながら真下を見ると雪崩が木を大きく揺らしながら森の中へ突っ込んでいっていた。
カレン「危なかったわ…」
3羽は急降下し、また低空飛行で森の中を北西へ飛んでいった。
(映↑)向かってくる雪崩→上昇する3羽→向かってくる雪崩→真下を通る雪崩→森へ入る雪崩
昼…
振り返るとまだ噴煙が黒い雲として見えていた。この時、噴煙は高度25kmに達していた。
フリー「砂は全く降ってこなくなったな…」
ロン「どうやら風向きの関係でこっちには来ないみたいですね…」
カレン「今、あの森はどうなっているの?」
ロン「わかりません…」
不安そうに真っ黒な南東を見る3羽。
その頃、ディエム達がいる森は太陽光が噴煙に遮られ、夜のような暗さになっていた。そんな中、空へ噴き上がり続けていた噴煙の一部が支えを失ったかのように地表へと落下しはじめていた。
(映↑)高く昇った太陽→振り返る3羽→噴煙→話す3羽→落下する噴煙
今回は映像指定無し。それとホワデビは44話が最終回となります。
火山と暗黒の空をつないでいた巨大な黒い噴煙の柱が崩れ落ちていく。巣でヒナを守っているディエム、花の見張りに戻ったディアン、枝にとまり災いがおさまるのを待つ鳥、逃げ惑う鹿とオオカミ…
山では崩れ落ちた噴煙の柱が接地した。空へ噴き上がっていた噴煙の柱が火砕流となり、今度は山肌を駆け降りはじめた。向かう先にはディエム達の森…加速しながら斜面を下っていく。温度は600度。通り道にあった雪は一瞬で蒸発していく。ふと山を見たディエム。巨大な黒煙がこちらに向かっていた。
ディエム「何だ?!黒い雲が押し寄せてくるぞ!!」
ディエムの見ている前で火砕流は山を下り終え、目前に迫ってきた。
ディエム「くっ!!」
ディエムは火砕流を背に翼を広げ、ヒナをかばった。その直後、火砕流が直撃。細かい枝は吹き飛ばされ、、太い枝や幹は表面が炭化していく。火砕流は鳥たちが身を潜めている木々を巻き込みながら森の中を突き進む。その先にはオオカミがいた。全力疾走で逃げるが、火砕流の速度は時速100kmに達していたため、どんどん差がつまっていく。そしてオオカミの姿は黒煙の中に消えていった。森にはさらに火山灰が降り積もっていく…
それからさらに時が流れた。
群れは星空の下を飛び続けていた。眼下には針葉樹林が広がっていた。
ピーター「この森はどうでしょう?」
クイック「いや、あの山の向こうを確認してからだ」
正面には針葉樹林に覆われた高さ1kmの山が迫っていた。
クイック「このまま山に向かって直進する。そして山肌に沿って上昇し、山を越えるぞ!」
ピーター「了解!」
山に向かって直進する群れ。どんどん視界が山でうまっていく。そして山が目前に迫ってくると、山肌に沿って上昇し始めた。群れは雪で白くなった針葉樹林の上を山頂目指して飛んでいく。針葉樹林の端が近づいてくる…
クイック「もうすぐ山頂だぞ!」
山頂に近づく群れ。そのまま飛び続けていると視界から山が消え、満天の星空だけが広がる。次々に群れは山頂を越えていく。視点を下に落とすと、清やかな月の光が広大な森を優しく照らし出していた。その遥か彼方には海が見えていた。
フリー「こっ、ここだ〜〜!!」
直感的に判断し、クイックは叫んた。
ピーター「ではついに!?」クイック「ああ、ここを新たな故郷にしよう」
ピーター「みんな〜旅は終わりだ!」
メンバーに叫ぶピーター。
旅の成功に群れのメンバーは喜び合う。
ピーター「やりましたね!」
ピーターも喜ぶ。
クイック「しかしここに来るまでにかなりの犠牲が出てしまった」
ピーター「はい…」
一転、残念そうな2羽。
クイック「まだフリー達のこともあるし…」
ピーター「はい…若いとはいえ厳しい旅です…」
クイック「今ごろ、嵐に遭ったりしてないだろうか…」
ピーター「我々は吹雪や未知の生物にも襲われましたし…」
クイック「たのむから無事でいてくれよ…」
クイックは月を見上げ、祈った。
続き
もどる
章名一覧へ
「この作品」が気に入ったらクリックして「ネット小説ランキングに投票する」を押し、投票してください。(週1回)