灼熱の記憶
〜元素誕生物語〜


1000万度
星雲が自身の重力で収縮していき、中心部の温度が1000万度になると水素が核融合反応を起し、ヘリウムが作られます。この時に発生するエネルギーで恒星は輝いています。

2億度
恒星中心部の水素が尽きると核は収縮し、温度が上昇していきます。この時、星は膨張し、赤色巨星となります。太陽の半分以下の質量しか持っていない恒星ではあまり温度は上昇せず、そのまま白色矮星になります。しかし太陽質量の恒星では、どんどん核の温度は上昇し、2億度に達するとヘリウムが核融合反応を起し酸素と炭素が生まれます。太陽質量の恒星では、これ以上核融合反応は進まず、後は白色矮星へと変わっていきます。

7億度
太陽の7〜8倍の質量を持つ恒星ではヘリウムが尽きると収縮し、核の温度が上がります。その温度が7億度に達すると炭素が核融合を始めます。しかし、発生するエネルギーを制御でぎず<星自体が大爆発を起し、粉々に吹き飛んでしまいます。さらに、重い恒星では炭素の核融合が<続き、ネオンやマグネシウムが誕生します。

30億度
太陽の8倍以上重い恒星は核にネオンが溜ってくると、エネルギーを生み出せなくなって、また核が収縮していきます。すると中心部の温度は上がっていき、核の温度が30億度に達するとネオンが核融合を開始し、シリコン、硫黄、カルシウム、アルゴン、等が生まれます。

50億度
収縮と核融合を繰り返し、核の温度が50億度に達すると鉄が誕生します。鉄は核融合反応を起さないため、支える力を失った星は崩壊し、超新星爆発を起します。この爆発エネルギーで鉄よりも重い元素全てが一気に生成されます。特に極超新星爆発ではさらに大量の重元素が生み出されます。こうして恒星が水素を元に作り出した数々の元素は超新星爆発時に宇宙へと放出されます。そして、別の場所で次世代の恒星や惑星の材料となります。

1兆度
上記のように大質量星は核融合反応で自然界に存在する全元素を生み出してきました。しかしそれだけでは宇宙にある元素の量に満たない可能性が出てきました。そこで、考えられたのが中性子星の衝突です。二つの物体が衝突する場合、お互いの密度が高いほど大きなエネルギーが働きます。そういう意味では1立方センチ当り5億トンの密度を持つ中性子星同士の衝突は莫大なエネルギーを解放することになります。まず、ある程度接近した二つの中性子星は共通の重心を周り始めます。そして徐々に接近して行き、お互いの距離が100km以下になると衝突が始まります。温度は最も高いところで1兆度にもなります。この宇宙トップクラスの超高温下で大量の元素が生成され、飛び散っていきます。これで宇宙に存在する元素全てを賄うことができると考えられています。


まとめ
基本的に水素以外の元素は核融合反応で生まれます。例えば鉄は50億度で誕生します。よって我々の周りにある全ての鉄原子は遥かな過去に50億度という超高温を経験していることになります。特集のタイトルにある"灼熱の記憶"はそのことをを指しています。また、宇宙の基本元素である水素は137億年前のビッグバンで誕生しました。その水素は恒星を形作り、中心核の核融合反応で様々な元素となり、星の死により旅立って行き、また別の星の一部となり、その星が死ぬ時に宇宙に再放出され…という過程を繰り返してきました。そして46億年前、宇宙を旅していた元素たちの一部が一箇所に集まり、太陽系を形成しました。実際、太陽系は少なくとも20個の星のカケラによってできているといいます。恐らく地球も同じでしょう。さらに、地球誕生の46億年後、地球内を旅する元素の一部を取り込み、私やあなたが生まれ成長してきました。その後、我々の体をつくっている元素は代謝や死後の埋葬によって、また地球内を漂うことになります。50億年後、いま我々の体をつくっている元素は地球と共に太陽に吸収されます。そして、太陽が死ぬ時に再び宇宙へ旅立って行きます。その一部は、また新たな恒星や惑星の一部となり、さらには知的生命の体にもなるかもしれません。今、我々の体を形作っている元素は星の遺産であり壮大な宇宙の旅人なのです。

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